この備忘録を共有したいのは
『マザーハウス(MOTHERHOUSE)』というブランドに興味がある方
この備忘録を読めば
マザーハウスと、代表兼デザイナーである山口絵理子さんの魅力をマーケティングや経営観点から知ることができます。おすすめバッグの『アンティークスクエアバックパック』についてもリアルな感想を知れます
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<目次>
はじめに
『マザーハウス(MOTHERHOUSE)』が大好きです。「好きなのに理由なんていらない!だって、好きなんだもん!」と女子高生の如く思いつつ、「自分がなぜマザーハウスを好きなのか」プロダクトだけでなく、その理念やマーケティング視点からも文字化してみました。
マザーハウス(MOTHERHOUSE)
マザーハウスとは、発展途上国の素材や文化を活かしたモノづくりを続ける、ファッションブランド。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、2006年にバングラデシュから、山口絵理子さんが立ち上げました。2023年現在ではバングラディシュに加え、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの6か国で、それぞれの国の素材の特色を存分に活かしたものづくりを行っています。主力商品は、バッグ、ジュエリー、アパレル、雑貨など。国内で30店舗展開しています。
私がマザーハウスを好きな理由
①かかげる理念が好き!
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という、この理念が好きです。そっか、いわゆる「フェアトレード(途上国の原料や製品を適正価格で継続的に購入することで、恵まれない途上国の生産者や労働者の生活改善を促す運動)」か、と思われた方もおられると思います。弱い立場の途上国の人々を支援してあげるんだなと。でも、マザーハウスは本質的に全然違います。途上国の人々が、実力で先進国の人を魅了するモノづくりをする。いわば物語の王道、「弱者のサクセスストーリー」。そこに惹かれるのです。
山口さんがバングラデシュに渡って最初に体感したのは、現地の人たちの「何をしてもこの暮らしは変わらない」という諦めきった姿勢、先進国の人に賄賂や恵みのお金を不当に迫る卑屈な態度でした。山口さんはこれに「違うだろ!」と憤り、現地の人が貧困という不幸を武器にするのでなく、実力で勝負できる機会を提供したいと思い立ったのです。それが、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というマザーハウスの理念になりました。そして「ジュート」というバングラデシュ原産の天然繊維の素材と出逢い、ここからマザーハウスというブランドが始まりました。
山口さんは立ち上げ当初、日本で卸との商談が不採用ばかりで、社会的意義よりも商品力が全てであることを思い知らされます。そもそも、社会的意義は商談に持ち込むことでないと。そこで現地のモノづくりに力を入れ、そのモノの良さが理解されマザーハウスは徐々に配荷を増やし、山口さんが情熱大陸で取り上げられたりもして、知名度を獲得していきました。
ただ、卸とは逆で、メディアで取り上げられる内容は社会起業家としての山口さんやフェアトレードの話ばかり。肝心の商品の話が取り上げられないことに山口さんはモヤモヤをとても感じて、さらに現地の生産者とモノづくりのレベルを高めていきました。山口さん曰く、社会的意義だけではサステナブルに成長できない。”かわいい、かっこいいものが欲しい”という人間の欲求に真正面から向き合い、満足度を満たすプロダクトを作りながら、確実に途上国の雇用増につながっているというのが在りたい姿、と語っています。
本業のかたわらでCSR(企業の社会的責任)に取り組む企業は多いですが、マザーハウスの場合、本業そのもののビジョンとして「企業の利益の先に何を夢見ているのか」を描いているのが素敵だと思います。
②物語から元気をもらえる!
この山口さん、むちゃくちゃ根性の人です。後ほど紹介する本で読めますが、学生の頃の柔道部のエピソードは、まるで野球を始める前の「ドカベン」!さらに、途上国で苦労する様は、さながら戦後のドヤ街を描いた名作「麻雀放浪記」の様です。
そもそも、バングラデシュに行ってみようと思い立った背景がまずアツい。途上国が豊かになる仕事がしたくて国際機関で働いてみたものの、先輩方の「途上国なんて行ったことないよ」という言葉に違和感を覚えた山口さん。「アジア 最貧国」で検索して出てきたバングラデシュに速攻行ってみたという行動力!さらに、予定期間の2週間では「わかった」ことには到底ならないと、大学院を受験してビザの期間を延長するという、凄すぎて笑っちゃう気持ちよさです。
そして、知らない人からも信頼していた人からも裏切りの数々。パスポートを盗まれ、素材や器具を持ち逃げされ、法外な退職金や理不尽な設備投資額を要求され、ゆすりに脅迫電話…。その国の為にも良かれと思ってやっているのに、本当に酷い仕打ちばかり受けながら、それでもその度に火事場のクソ力で立ち上がり、前を向いていく様は、まさに少年ジャンプの世界そのもの!後に紹介する山口さんの書籍でそのあたり、是非読んでみてください。むちゃくちゃ面白いです。
主人公は山口さんですが、その周囲の現地の生産者の皆さんも、日本でサポートしてくれる皆さんも、それぞれに物語がある。そんな物語に思いを馳せると、使っていて元気が出てきます。
山口さんが現地の人々に突きつけられた「君はなんでそんな幸せな環境にいるのに、やりたいことをやらないんだ?」。これが、このブランドの裏メッセージだと感じます。
山口さんはやりたいことが見つかったから輝いているように見えますが、山口さんはこう仰ってます。「簡単にやりたいことなんてみつからない。人生とは、やりたいことや自分が幸福だと思うものを探し求めてやってみて、違ったらまた探し、見つける。そんなプロセスそのもの」山口さんをして、そうなんですね。マザーハウスの鞄やペンケース、ブックカバーなどのグッズを使っていると、「自分も頑張ろう!」とふとしたタイミングで元気をもらえます。
③仕事をするうえでの示唆にあふれている!
山口さんが数多の経験からの学びを反映させているマザーハウスの経営は、私たちが仕事をするうえでも大切にすべきことの示唆にあふれています。
現地現物、現場主義
山口さんは1年の大半を生産地で過ごし、生産地の言語に合わせて英語、ベンガル語、ヒンディー語、ネパール語を使い分けされます。通訳を介して話すのと、直接話すのでは、伝わり方のレベルが違いますよね。そして何事も、自分でやってみるという姿勢がすごいです。鞄づくりを理解する為に鞄職人養成学校に入学したり、現地でジュエリーの石の鋳造&鋳型の修行したり。現地現物を知り、やり方の基礎を知ることで、生産者とのさらに高次のコミュニケーションを実現しているのだなぁ、と感心します。お店に店員さんとして立つことも、今も定期的にされている。実際に店頭でお客様の行動を観察したりお声を聞くことで、現場感覚を養っておられるんだと思います。お店にいって山口さんがおられたら、びっくりしちゃいますね!
透明性
モノやサービスに溢れる現代において、Z世代(96~15年生まれ)やα世代(10年~生まれ)の主たる購入動機は自分自身の「納得」です。その「納得」にとても寄与するのが私は「透明性」だと思っていて。マザーハウスの、現地工場で生産者と一緒にエコバッグを作るツアーをやったり、お客様を生産地に連れていくのはすごく透明性を生む取り組みだなぁと感嘆します。また、この透明性は逆に現地の生産者にとっても、自分たちの作った商品がどんな人達の手に渡り、どんな感想を持ってくれているということを知ることになる。お客様の購入意向を喚起し、職人の誇りを刺激してさらに良い仕事につながる、すごく良いサイクルをもたらす仕組みだと思います。
サードウェイ
山口さんが大切にされている考え方に、「サードウェイ」があります。一見、相反するふたつの内容を掛け合わせて新しい何かを創造する。どちらかだけを選んだり妥協点を探すのでなく、それぞれの良いところを組み合わせ、らせん階段を上るように上昇させ、新しいものを作る。『7つの習慣』でいうところの「相乗効果を発揮する」に近しいと思います。
例えば「社会性」と「ビジネス」だと、先程の事例にもあった、途上国の職人さんの実演でお客さんを集客するというアイデア。
「プロダクトアウト」と「マーケットイン」だと、プロダクトアウトで作った初案に、お客様の声を反映させていく。自分の発想で作った鞄に、お客様の意見を参考にして、スマホを入れるポケットを足す、など。
山口さんは現地で得た着想を、お客様が今の生活に落とし込める、寄り添えるデザインにチューニングしていく。「現地の着想」をそのままデザインせずに、「売る国のお客様の好み」と掛け合わせてレベルを上げていくというのがポイントで、これもサードウェイですね。
山口さんは、サードウェイを見つけるのが楽しいと言います。たしかに、サードウェイを探すのは宝探し要素がありますね。楽しみながら良いサードウェイを見出す、そんな風に自分も仕事したいなぁと思います。
両利きの経営
『しずく』というジュエリーがヒットした時、販売の現場がしばらくクリスマスの顔として、毎年ずっと押し出していたそうです。その時に山口さんは危機感を覚えた。これでは新作がいつまでたってもスポットライトを浴びないと。眼の前の数字と並行して、長期的視野でいつか花開く種を撒く、実験してみることが今こそ大切だと。その為には、成功体験を乗り越えるという意識が重要だと、痛感されたんですね。まさに両利きの経営、その為に成功体験をあえて忘れる姿勢が大切であること、具体的なエピソードから伝わってきます。
ゴールのすり合わせ
それぞれの人や地域の理想や価値観、目指すゴールは様々。これを達成したらWin-Winだよね!と突き進んだ方向が、実は相手の望む先ではなかった、なんてことはあってならない。例えば、たくさん商品を受注できれば幸せか、といえば、夜まで働いて家族の時間を減らしてまでは幸せでないと感じる生産者もいる。プロジェクトの関係者とは、やること事態やそのやり方だけでなく、目指すゴールを解像度高く互いに理解してすり合わせておくことが大切だということを、山口さんは様々な国や文化における経験を通じて教えてくれます。
今自分が取り組んでいるDXもまさに一緒だなぁと思います。相手がデジタル活用してどんな未来を獲得したいと思っているのか、すり合わせることが本当に大切です。
④プロダクトが好き!!
最後にやっぱり、これが一番。プロダクトが好きです!
今回は、中でも私が一番気に入っている『アンティークスクエアバックパック』という商品を紹介します。
デザインが好き!
丸っこいフォルムのリュックと違って、スクエアなのがカッコいいと思いました。5年前に買った当時は、そんなにスクエアなバックは無かったと思います。革の色目も、素敵。天然の牛革にじっくりとオイルを浸透させており、この微妙な濃淡が出せる職人が、バングラデシュでも1名しかいないそうです。そして、ひとつとして同じ色目のモノはなし。カラーは私はダークブラウンを選びました。落ち着いていて、それでいて個性的で、本当に大好きです。内装はチェック柄で、バングラデシュの人力車をイメージしているとのこと。シンプルな外装と、心地よい対比を生んでいます。
機能性が好き!
背負い心地がすごく軽いです。肩ベルトのフィット感も、すごくいい。幅が微妙に下に行くほど細くなったりしているのが影響しているのかもです。見た目以上に収納力もあります。私はかなり、あれもこれもとモノをパンパンに入れちゃうタイプなのですが、このバッグにしてからは、入り切らない!というストレスは皆無です。ノートパソコンのポケットも余裕があり、ペンや小さな小物を入れるポケットも4個ついています。表面もにひとつポケットがあって、これがまた、すぐに出し入れしたいものを入れるのにちょうどいい。私は、オフィスですぐエレベーターに乗ったりする時に使う、首から掛ける社員カードを入れています。
まとめ
今日の備忘録
マザーハウスは理念もその立ち上げからの物語も、素敵で学びが多い。そしてなにより、プロダクトがとても良い!大好きで、おすすめのブランドです!
先日、マザーハウスのお店でバッグの保湿ケアをしてもらいました。ネパールから来たという店員さんが対応してくれて、彼女は、留学中にマザーハウスを知り、母国も登場するストーリーに感動して、ここで働きたいと思ったそうです。
私がマザーハウスを知ったのは、今は自分もマイスターを務めている、日本マーケティング協会の講演でした。副社長の山崎さんが講演をしてくれて、すごく感銘を受けて、すぐにバッグを買いに行きました(上のバックパックとは違った手持ちのバッグ)。あんまり感動したので、私の務める会社にも講演に来ていただきました。山崎さんが「出来るんですよ!」「やれるんですよ!」と何度も仰っていたのを覚えています。上述した、「君はなんでそんな幸せな環境にいるのに、やりたいことをやらないんだ?」というメッセージですよね。山崎さんはとても頭が良くて熱くて、とてもチャーミングな方です。
山口さんとも、とあるイベントで登壇した際にご一緒する機会があり、その時にご挨拶できました。「バッグ、すっごく似合ってる!素敵です!」とはしゃいだように仰っていただき、すごく嬉しかったです。「自分は普通だと思っている」という山口さん、たしかに、実物の山口さんは本当に、「素敵に普通」でした。
おすすめの一冊
興味を持たれた方は、是非マザーハウスのお店に行ってみてください。また、これらの本を読んでみてください。本当に面白いし、元気をもらえます!
「裸でも生きる」山口絵理子
山口さんがなぜ起業に至ったのか、その過程とバングラディシュでの何から何まで初体験の奮闘に手に汗握る第一章!
「裸でも生きる2」山口絵理子
怒涛のネパール編。文化が変われば問題も変わる、会社も創成期から成長期へと課題も変わる。ドキドキハラハラ第二章!
「輝ける場所を探して」山口絵理子
設立10年、新しいチャレンジはなんとジュエリー。インドネシア/スリランカでも挑戦は止まらない、波乱万丈の第三章!
「Third Way」山口絵理子
上述した「サードウェイ」の考え方を生々しいエピソードを交えて説明。わかりやすい!