この備忘録を共有したいのは
・仕事で成功するための心構えを学びたい人
・稲盛和夫さんの人生方程式に興味がある人
・人生方程式は知っているけれど、どうすればよいかイマイチわからない人
・組織で仕事を成功させたい、リーダー
この備忘録を読めば
・稲盛和夫さんが唱えられた、人生や仕事の結果が何に影響を受けるかを表す成功方程式の概要を知ることができます
・それだけでなく、その方程式を構成する個々の因子を高める具体的な方法を学ぶことができます
・個人としてだけでなく、組織においての方法も学ぶことができます
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<目次>
はじめに
「幸せな人生を送りたい」多くの人が思うのではないでしょうか。私も思います。「幸せな人生」はいろいろなことから構成されると思いますが、「仕事」は中でも大きな因子だと思います。そんな、人生や仕事において、成功するための方程式を唱えた方がおられます。京セラや第二電電(現KDDI)などを創業し、日本航空(JAL)を再建された、稲盛和夫さんです。
稲盛和夫さんの人生方程式
稲盛さんが唱えられた方程式は、「人生・仕事の結果=能力×熱意×考え方」というものです。人生や仕事の結果は、その人が持つ「能力」に加えて、その人がどのくらい「熱意」をもって、どういう「考え方」で取り組んだのかという、3つの要素の掛け算になると稲盛さんは考えられたのです。
ちなみにこの方程式は、稲盛さんが経営者として成功してから編み出されたものではなく、京セラを創業した際に、なんの才能もない自分たちがどのようにしたら成功できるのか?ということを考え抜いて、この方程式を考えついたのだそうです。そしてその方程式どおりに「能力」「熱意」「考え方」を大切に仕事をした結果、京セラやKDDIの成功、そしてJALの復活を成し遂げられた。稲盛さんご自身が実践し、人生をかけて方程式の正しさを実践されたこと、本当にすごいと思います。
なお、私も20年以上サラリーマンとして現場で、管理職として、仕事と向き合ってきて、この方程式は本当に本質をついていると感じます。納得性がとても高いです。しかしながら、構成する3つの因子「能力」「熱意」「考え方」それぞれの数値を上げる方法が、方程式とセットで語られることは意外に少ない。そこで今回は、私がこれまでの仕事人生で実際に経験し、学んできたことから、人生方程式の個々の因子の高め方、さらには組織における応用の仕方までを、共有しようと思います。
一方、「仕事」にはとても当てはまるとしみじみ実感しつつ、あらゆる人の「人生」に当てはまる成功方程式かといえば、私はそこまで腹落ちできていません。仕事が人生のほとんどを占めるような人はこの方程式がそのまま人生にも当てはまると思いますが、人生に大きく影響する「人間関係」にこの方程式がどうはまるのか、今の私は正直いって、腹落ちした理解ができていません。なので、今回は仕事における成功方程式として、私が自信を持って話せる内容として、皆さんに共有したいと思います。
個々の因子は足し算でなく、掛け算
まず、方程式の前提から。「能力」「熱意」「考え方」それぞれの項目は、100点満点もあれば、0点もあります。だから、いくら「能力」が90点とか高い点数でも、「熱意」が0点ならば、結局、仕事の結果としては0点になってしまうのです。これが足し算でなく、掛け算になっているミソです。
また、唯一「考え方」だけは、マイナスもあります。-100点~100点。つまり、「能力」も「熱意」も高くても、「考え方」がマイナスならば、掛け算で、結果はマイナスになってしまうのです。頭が良く、お金を稼ぐ方法や薬品の開発に情熱を注いでも、それを詐欺や犯罪に使ってしまっては、仕事や人生の結果としてはマイナスですよね。
「能力」「熱意」「考え方」の優先順位
では、皆さんは「能力」「熱意」「考え方」のどれが一番大事だと思いますか?
私の思う順番は、①「考え方」②「熱意」③「能力」 です。
理由は、前述のように「考え方」はマイナスにもなってしまい、もっとも結果に影響が大きいからです。プラスの考え方の中で、時に5点とか10点といった低い数値に迷走しても全然いい。でも、マイナスになるのは大問題。結果そのものがマイナスにふれてしまいます。そんなに重要なのにもかかわらず、「考え方」を常にプラスに保つことは簡単そうで、実はとても難しいこと。だから、まずは「考え方」が大切としました。
次いで「熱意」としたのは、「熱意」の点数を上げていくことも、場合によってはとても難しいからです。「能力」は、先天的な要素もありつつ、努力で点数を上げていくことができるので、他のふたつに比べると組みやすしということで最後にしました。また、「能力」が自分や周囲からも可視化されやすいことに比べ、その人の持つ「考え方」と「熱意」はなかなか見えにくいことにも注意が必要です。
「考え方」
それではここからは、個々の因子の数値をどうすれば高めていけるかを解説していきます。まずは私が一番大切と思う、「考え方」から。
人は性弱ゆえに、プラスの考え方もすぐにマイナスに
人間の生まれついての性質を善きとする「性善説」と悪しきとする「性悪説」とがありますが、私は「性弱説」がしっくりきます。人間は、そもそも弱い生き物である。
だから、本来は善くありたいと思っていても、すぐに悪い考えに心がなびいたり、悪い行動に手を染めたりしてしまいがち。普段は誠実な人間も、不誠実になりえます。たとえば、会社の不正に手を貸したり、売れないと思いつつも新製品を強行発売したり。
正しい「プラスの考え方」を自分で知っていても、周囲の環境に感化されたり、プレッシャーに負けたり、ついていないできごとに対する憤りや、他人への文句や嫉妬、快楽や儲け話の誘惑などがきっかけで、「マイナスの考え方」になることが、人間は実に多い。性弱だもの。
考え方を、自分なりの持論・哲学にまで昇華させる
そうならないためには、「プラスの考え方」を自分なりの持論・哲学にまで高め、確固たるものにすることが効果的です。自分はこうありたい、自分の行動原則はこうであると。そして様々な局面でことあるごとに、その持論・哲学を判断軸に、自分が納得できる振る舞いをする。こうしたことを繰り返すことで、筋肉のように自分なりのインテグリティ(誠実さ)が鍛えられていきます。自分が決めた道から外れる考え方に陥ったり行動をしそうになった際に、どこか座りが悪かったり、恥ずかしいと思えるようになってきたら、筋肉がついている証拠です。他人の評価を気にせず、感情のジェットコースターから解放される。私もまだまだ到りませんが、そんな境地に近づいていきます。
実際の体験だけでなく、読書も考え方を高めるのに有効
では、その持論とも哲学ともいえる自分なりの「プラスの考え方」は、どのように身につけていくのか。そもそも哲学とは、答えや結論を誰かに教わることではなく、自分自身で考える過程を重視するもの。その材料になるのが、自分がこれまでに実際に経験したことや考えたことですが、読書もとても良い材料になると私は思います。「汝は汝が食するところのものなり」という西洋のことわざがありますが、人間の肉体は過去食べたもので構成されるように、知性は脳が過去食べた知的インプットで、感性はハートが過去食べた感性インプットで構成されます。
読書を通じて体験する辛く悲しいできごとから人の気持ちに想いを巡らせることができるようになったり、自分が本当に経験した時に乗り越える強さや自信の元になる。命の尊さを感じる読書体験があれば、今の瞬間を大切に思えるようになる。自分の人生だけでは限界がありますが、読書によって擬似体験ができます。読書により感性(人生観、想像力、人格など)を深めることができる。読書は、「プラスの考え方」を自分なりの持論・哲学にまで適切に高め、固めることに役立ちます。
「動機善なりや、私心無かりしか」
なお、稲盛さんが自分の行動が「プラスの考え方」に沿っているかチェックするためご自身に投げかけられていた問いかけが、「動機善なりや、私心無かりしか」です。自分がしている / しようとしている行動は、自分でなく誰から見ても正しいか?人間として正しいか?自分がよく見られたかったり、儲けるためといった私心にもとづいていないか?
稲盛さんが第二電電(現KDDI)を創業したのもJAL会長を引き受けたのも、根底には、NTTやANAの寡占でなく適切な競争原理を働かせてサービスや価格面でのメリットを国民にもたらす目的がありました。常に大きな決断の際、ご自身に問いかけていたのです。「動機善なりや、私心無かりしか」と。皆さんも、自分で定めたプラスの考え方に自分の決断や行動は沿っているのか、時には自分に問いかけてみることをおすすめします。
組織に、「プラスの考え方」を根付かせるには
そしてこの方程式は、個人個人だけでなく、会社やチームといった組織でも重要です。「考え方」に関しても、リーダーが示す「プラスの考え方」がメンバーに浸透している組織は強く、安泰です。やり方はシンプルに大きくふたつ。
明言し、語る
「このチームが大切にすること」「我々の行動規範」といったカタチで、プラスの考え方を明言し、リーダー自身の言葉でメンバーに語り掛けます。私も、期初や節目のMTでは常に、実施しています。内容は、「正直であれ」「わかりやすさを大事にする」「凡事徹底」「社内外に学ぶ」などなど、当たり前のことが多いですが。
行動で示す(言行一致)
そして、日々の仕事において、上述の考え方を行動で示していきます。私であれば、MT開始時間に遅れないことやデスクの整理整頓などの凡事徹底はもちろん、社外研修や交流会に積極的に参加して情報を率先して取りに行くなど。いくら良いことを語っても、行動が一致していなければ説得力はゼロ、メンバーにその考え方が根付くわけがありません。
日々のメンバーとの仕事の中で、考え方を行動で示せそうな局面があれば、チャンス!と思いましょう。たとえば、自分が指示したことでメンバーが上層部に責められた場合、「すみません、自分の指示です」と正直に朗らかに述べる。当たり前ですが、できていないリーダーをよく見かけます。
また、メンバーが、新製品や新サービスの受容性調査結果をにらみながら、「見せ方によっては合格なんですけどね・・・」と悩んでいる。そんな時に、「そうだね。でも、ここは正直に、あるがままを報告しよう。そのうえで、このような切り口だと合格するということを我々の意思として伝えよう」と導く。「正直である」というプラスの考え方を、リーダーが言行一致させて示すのです。
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「熱意」
続いて「熱意」。「熱意」も「考え方」同様、周囲の環境や成功・失敗などによってあっという間にゼロになってしまうので要注意です。また、「考え方」と「能力」は学び吸収することができるけれど、「熱意」は自分の心の底から生み出すしかない。素直に湧き上がる時は簡単なのですが、場合によってはもっとも数値を上げるのが難しいと思います。稲盛さんと同じく経営の神様と称される松下幸之助さんは、成功の第一条件をこの「熱意」と仰っていました。熱意がなかったら何もできん、と。
もともと好きだったりやりたい仕事の場合は、熱意を上げるのは簡単。問題は、自分のやる気スイッチがなかなか入らない仕事や業務の場合です。以下に、私のおすすめの方法を紹介します。
マズローの欲求5段階に照らし合わせ、刺激する
「マズローの欲求5段階説」をご存じでしょうか。アメリカの心理学者であるマズローが提唱した、人間の欲求には5段階あるという理論です。
- 生理的欲求:食欲や性欲、睡眠欲など、生きて暮らしていくための欲求
- 安全の欲求:心身の安全が確保された生活を送りたいという欲求
- 社会的欲求:集団に所属して受け入れられたい、仲間を得たいという欲求
- 承認欲求:他者から認められたいと考える欲求
- 自己実現の欲求:あるべき自分になりたい、向上心や達成感といった欲求
自分の目の前に与えられた仕事を、この5段階のどれかの欲求に無理やりにでも結びつけてみましょう。「5.自己実現の欲求」と結びつけられる人は、もう既に熱意があります。そうではない人は、たとえば、「1.生理的欲求」と結びつけて、とにかく給料を稼ぐためだと割り切る。どうせやるなら良い成果を出して給料を上げる、あるいは早く効率的に終わらせて自分の趣味や休息の時間を増やす。そこを目指して、小さな熱意の火種を起こしましょう。美味しいものやちょっとした買い物など、やり遂げたときの自分へのご褒美を設定するのもありです。あるいは、「3.社会的欲求」チームメンバーに必要とされたいために頑張る。「4.承認欲求」上司に評価されたり、異性にカッコいい姿を見せたいために頑張る。仕事自体があなたのやる気スイッチを押してくれないなら、自分で押したくなる目的を設定するのです。
目の前の与えられた仕事に没頭し、試行錯誤する
目の前の仕がたとえ自分がやりたいものでなくても、とにかく没頭して、やってみることです。愚直でも、結局はこれに尽きると思います。たとえば、部屋を掃除するという仕事であれば、徹底して、ほこりひとつも落ちていない状態に仕上げる。ほうきの履き方の試行錯誤に始まり、モップや掃除機との使い分けや、ガムテープなどを使ってみるか、などと創意工夫を考えてみる。ピカピカになって、まずは自分で自分を褒めてあげる。こういったことで、まずは自分自身で小さな火種を起こすのです。
ホリエモンこと堀江貴文さんが証券取引法違反で捕まった際に刑務所で最初に与えられた仕事は、無地の紙袋をひたすら折るという仕事でした。最初はノルマの50個すらギリギリ達成するような状態でしたが、ここで堀江さんは、創意工夫をこころみます。教えてもらった手順に無駄はないか?折り目をつけるときの紙袋の適切な角度は?などなど。結果、3日後には79個折ることができ、単純に楽しく、嬉しかったそうです。教えてもらったままの折り方で50枚のノルマを愚痴をこぼしながらこなすだけなら、これは与えられた仕事で、熱意の火種は生まれなかったでしょう。でも、マニュアルどおりにこなすのでなく、もっと良い方法がないかと自分で考え、仮設を立て、実践し、試行錯誤を繰り返す。そんな能動的なプロセスに楽しみを感じたり、達成感を得たり。熱意の火種は、このようにして起こすものだと思います。
私も新入社員のころ、開発中の芳香剤に含まれる水分量を毎日測るという仕事を与えられましたが、ニオイもきつく、長時間その部屋にいることが苦痛でした。そこで、少しでも早く効率的に終わらせようという思いで、測定の仕方を様々創意工夫して、早くかつ正確に終わらせるやり方を見出したことがあります。すると、先輩が認めてくれたりするものです。そうしたら、それも糧にして、パタパタあおいで火種をまた自分で大きくしていくのです。
ポイントは、自分自身が影響を及ぼせる範囲で仕事に没頭する。もっと折りやすい紙質にすればよいのにだとか、測定しやすい計量器だったらよいのにだとか、人員をもっと配置すればよいのにだとか、そんなことはまずは考えません。「変えられない事」を変えようとすると、ストレスになるし、不平不満につながります。一方で、「変えられる事」を変えれないと思い込まないことです。まずは自分ひとりでできる範囲で、目の前の仕事に没頭するのです。
目指したい姿はまざまざと鮮明に描く
その仕事をやり遂げた際のイメージを、できるだけポジティブでカラフルで具体的に描いてみましょう。やり遂げたら、目標管理シートにはこんな風に書いて成果をアピールしよう、チームメイトは自分のことをこんな風に感じるだろう、自分へのご褒美に〇〇をしよう・・・。「売上◯万円達成」「◯%達成」みたいに無機質な数値目標でなく、今にも色つきのムービーで動き出しそうな、そんなイメージです。
旭山動物園のスタッフたちは、経営が厳しくつらかった時期、こんな時だからこそ奮い立とうと、14枚の未来をイメージしたスケッチを描きました。ホッキョクグマやペンギンがすごいスピードで水中を泳ぐところが見れたり、頭上の網をオラウータンが縦横無尽に渡る…、それぞれのスタッフが夢みる施設が具体的に描かれており、その実現を目指しみんなで熱意を高めたのです。
ポジティブ・カラフル・具体的な達成イメージは、熱意のエンジンになります。
自分に与えられた仕事に意味づけをする
『3人のレンガ職人』という童話を聞いたことがあるでしょうか。せっせと働いている職人に旅人が「何をしているんですか」と問うと、1人目は「レンガを積んでいる」と答え、2人目は「壁を作っている」と答え、3人目は「教会を作っている」と答えました。3人目の職人はさらに言います、「多くの人を幸せにするこんな大切な事業に携われて嬉しいんだ」と。モチベーションが最も高いのは、当然3人目の職人。自分が今の仕事を何の為にやっているのか、その捉え方が仕事に対する熱意に差を生み出すというお話です。
レストランのホールスタッフの仕事をしていても、ただただ淡々とテーブルに料理を運ぶ作業と捉えるか、お客様に楽しい時間を提供しているという想いで料理を届けるかでは熱意と、それに伴う行動に差が出るでしょう。ホテルの宿泊予約コールセンターの仕事であれば、ただ電話口のお客さんの言うとおりにシステムに打ち込む作業なのか、お客様の旅をコーディネートするくらいの気持ちで電話に出ているのかで、これも差が出るでしょう。
平均の3倍売り上げることで話題になった東海道新幹線のパーサー、新幹線ガールこと徳渕真利子さんのお仕事っぷりはとても楽しそうでエネルギッシュです。もちろん彼女のセンスや才能もあるのでしょうが、仕事に対する意味づけの意識も他の人とはきっと次元が違うんだろうなと感じました。
上司や先輩が、モチベーションが上がるような仕事の意味づけをうまくあなたに伝えてくれるなら、けっこうです。が、そうでない場合の方が多いでしょうから、自分で意味を見出すのです。自分の人生、自分自身で熱意を生み出していきたいものです。
組織のメンバーの「熱意」を高めるには
続いては組織の熱意。「仕事への熱意」に関する調査(2023年、米国ギャラップ社調べ)によると、なんと日本はわずか5%で全145か国の最下位でした。そもそも低水準だった7年前から、さらに2%下がっています。ちなみにトップは30%を超えるアメリカで、世界平均は23%。なんともせつないことですが、これが現実。日本のリーダーに今強く求められる重要な役割が、メンバーの熱意を高めることです。
では、何をやるべきか?答えは、前述した内容でメンバーの背中を押すことです。
承認欲求を刺激する
メンバーの、マズローの欲求5段階の特に「4.承認欲求」を刺激しましょう。リーダーが直接褒めることも大切ですし、あえて直接言わずに他のメンバーに「彼は頑張っている」などと人づてに褒める間接承認も、本人に伝わるのに時間がかかる反面、伝わったときには大きな効果を発揮します。また、チーム内でささいなことでも褒めあうのが当たり前のような雰囲気を醸成すると、「3.社会的欲求」も満たすことができます。
ポジティブ・カラフル・具体的なゴールイメージを示す
メンバーがワクワクするような、ポジティブ・カラフル・具体的なゴールイメージを描き、示しましょう。中期経営計画の数字に、従業員を鼓舞する力は弱い。『星の王子さま』の作者サン=テグジュペリは、『船を造りたかったら、人に木を集めることを促したり作業の割振りをしたりせず、まずは果てなく続く広大な海を慕うことを教えよ』と言いました。その通りだと思います。
前述のレンガ職人の話でいえば、「教会を作るんだよ、そこで多くの人が幸せになるんだよ」と示す。可能ならば実際の作業も、教会内部の柱とかよりも先に、屋根や外壁や看板といった、わかりやすく派手なところから進めると、さらに効果的です。そして旭山動物園のように、厳しくツラい時こそ、リーダーはポジティブなゴールイメージを先頭切って描き、トンネルの先の光を示すことが大切です。
組織のミッションを示す
メンバーに、その仕事が真に意味するところを伝えましょう。それには、組織のミッションを掲げることが効果的です。自分たちがなぜこの仕事をやるのか、自分たちの存在意義、使命を示すのです。あなたの / 私たちの仕事は、こんな風に世の中の役に立つのだと。可能ならば、お客様の喜びのお声なども紹介すると効果的です。魅力的なミッションの例をいくつかあげてみましょう。
- Google:世界の情報を整理して、誰もが便利に利用できるようにする
- メルカリ:あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる
- メタ:コミュニティ作りを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する
- ソニー:クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす
- とらや:おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く
- オムロン:我々の働きで我々の生活を向上し、よりよい社会を創りましょう
なお、会社のミッションでは遠すぎてメンバーが自分ごと化しにくいようであれば、自部門が会社においてどのような役割を果たすのかという、社内におけるチームのミッションを示すことをおすすめします。
メンバーの心情を理解することが大前提
ここに書いてきたことは、メンバーの心情を理解したうえで実践することが大前提です。メンバーとリーダーとでは、置かれている立場も、見えている景色も、持っている情報も全く違います。だから、考え方や熱意に違い、温度差は出て当然なのです。自分側からの理屈で考え方や熱意を強引に押し付けないようにしましょう。それは今の時代、ハラスメントです。まずはメンバーがどんなことを感じ、思っているか。そしてどんな風な考えでいるかをリーダーから理解に努め、そのうえで、上述の打ち手をこころみることです。さもないと、考え方は変わらず、熱意は高まりません。
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「能力」
いよいよ最後に、「能力」です。「能力」は持って生まれた才能や体格など先天的なものもありますが、進化させることができる能力も多くあります。新しいスキルを学び身につけて実践、仕事に活かす「リスキリング」や、そもそも学びなおし自体を目的にする「リカレント教育」など、大人になってからの勉強が昨今、注目されています。
自分の未熟さを知り、アンラーンする
まず、能力を高めるために、自分や自社がいかにまだまだ未熟かを、謙虚に自覚することが大切です。自分が知らない、気づいてない、思い込みがある、視野が狭いことなどなどを自覚する。井の中の蛙になってはいけません。成功体験に固執せず、新しい知識や技術を積極的に世の中に取りに行く姿勢が、能力向上には大切です。
たとえば、AIに対する態度ひとつとってもそう。私の会社にも「AIの出すアイデアなんてろくなもんじゃないよ。使えねぇ」と、少しだけAIをいじってみて使えないと決めつけて昔ながらのやり方に執着する人と、「今はまだショボいアイデアしか出せないけど、これは自分が勉強してうまく使いこなせば、すごく良いアイデアが出せたり効率が上がるんじゃないか」と目を輝かせて取り組む人がいます。3年後、ふたりの「能力」には大きな差が生まれていることでしょう。後者のように、うまくアンラーン(以前の常識を捨て去り、新しい視点や考え方を柔軟に受け入れること)できる人は、世の中や時代の変化に対応して、能力を進化させることができる。そもそも、このこと自体が「アジリティ」と呼ばれる能力なのです。イギリスの生物学者チャールズ・ダーウィンの有名な言葉にあるように、『最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。唯一生き残るのは、変化する者』なのです。
インプットを増やす
能力を伸ばすためには、インプットを増やすことが当然大切です。色々な場所に出かけることも良いですし、色々な人に出会い話をすることも良いです。「考え方」でも触れた読書は、能力を高めるインプットとしても最適です。先人たちが失敗を重ねながら獲得した、長い年月の知見や学びを、短時間で手に入れられる。こんなにコスパの良い学習はありません。また、自分で体験してみることも大切です。「知ってるつもり」でなく、実際にやってみる、使ってみる、味わってみる。そのことで、インプットの質がぐんと上がります。
アウトプットして失敗する。そして繰り返す
インプットすることばかりに一生懸命になって、いつまでも一歩踏み出せないのでは意味がありません。学んだこと、学んだことから考えたことを、実際にアウトプットしてみましょう。
アウトプットを増やせば、伴って失敗も当然沢山することになりますが、それがまた良いのです。失敗は成功よりも学びが大きいです。なぜなら、たまたまの成功はあっても、たまたまの失敗はない。失敗には必ず理由が潜んでいるので、色々な場面に応用できる、汎用性の高い学びが失敗からは得られるのです。私もそれはもうたくさんの、色とりどりの失敗をしてきました。今ではその失敗を会社の後輩や社外の若い世代に学びとして、研修や講演で伝えています。失敗って素敵だなぁって思います。
さらに、能力を高めようと思えば、何度も繰り返すことが大切です。壺のお手入れに例えると、さっとこすって埃を取るのは『拭く』という行為。ピカピカになるまで同じところを何度もこするのは『磨く』という行為。おもてっつら、さわりだけやってみるといった『拭く』でなく、同じ行動や所作を何度も繰り返し『磨く』ことで輝きが放たれてきて、強みや武器になる。仕事だけでなく、スポーツも、その他の趣味も、何だってそうだと思います。
年齢は関係ない
「自分はもう歳だから、いまさら能力は上げられないよ」と感じている人はいませんか?年齢は関係ありません。自動車会社フォードモーター創設者のヘンリーフォードの名言。『20歳であろうが80歳であろうが、学ぶことをやめた者は老人である。学び続ける者はいつまでも若い。人生で一番大切なことは、若い精神を持ち続けることだ』。
伊能忠敬は “人生50年”といわれた時代に、50歳で天文暦学という分野に興味を持ち、 19歳も年下の高橋至時(よしとき)に弟子入りし、リスキリング。55歳を過ぎて測量の旅を開始、17年かけて約3.5万キロもの距離を歩き、日本地図を完成させました。
また、若宮正子さんという方をご存じでしょうか?定年退職してからパソコン通信にハマり、なんと81歳で、雛人形を雛壇に正しく配置するスマホアプリゲーム『hinadan』を開発されたのです。
このお二人のように全く新しいことへの挑戦だってやればできるし、今の自分の仕事の延長線上であればなおさら、今までの経験も材料にできるので、歳を重ねていることが強みになりますね。自分ごとで恐縮ですが、私も化粧品検定やDXパスポート、ITパスポートといった資格を取ったのは40代半ばを過ぎてからです。大人になってからの勉強の方が楽しいぞって息子たちにも話しています。
組織のメンバーの「能力」を高めるには
メンバーの能力を高めるためにリーダーができることはズバリ大きく2つ。
メンバーの能力面での成長を支援する
リーダーの知見を活かし、メンバーの能力面での成長を支援するのはリーダーの大切な役割です。ポイントは、TPOによって次の3つを使い分けるということです。
- 「ティーチング」知識やノウハウを伝え、具体的にアドバイスする
- 「コーチング」対話や問いかけを通して、本人自身の気づきを促す
- 「カウンセリング」負の感情に寄り添い、一緒に悩み解決のサポートをする
相手が誰か、どんな場面か、どんな気持ちでいるのかを念頭に。この3つのどれが適切かを意識して状況状況で使い分けましょう。ツールの使い方など、知らないと始まらないようなことは手早くティーチングしてあげた方がよいですし、一方で、仕事の進め方で悩んでいたりする場合は、客観的にリーダーが感じることなどをフィードバックしながらコーチングし、本人自身でベストショットを見つけた方が、結果的に本人の成長につながることが多いです。また、本人が前を向けないような精神状態では成長も望めないので、まずはカウンセリングが必要です。
メンバーが能力を最大限発揮できるようにサポートする
まず、メンバーが元々持っている能力を最大限発揮できる環境を整えることが大切です。そこで「心理的安全性」が昨今よく取り上げられるのですが、「心理的安全性」を、何をしても許されるぬるい環境、なかよし倶楽部みたいに勘違いしてる人が多い。それは誤りで、本当の「心理的安全性」とは、「このチームでは素直に自分の意見を伝えても、対人関係を悪くさせる様な心配はしなくても良い」という信念が、メンバー間で共有されている状態のことです。要は、批判的意見も無邪気に言い合える環境。リーダーは、このような環境作りを心がけましょう。
また、メンバーが新しく学んだスキルを試せる、実践できるような環境を提供することも大切です。プロジェクトマネジメントを学んだメンバーには積極的にその役割を任せてみたり、アプリ作成のスキルを学んだメンバーには、一気に世の中や全社に出すサービスではなく、チーム内で活用できそうな簡易な便利ツールを作るミッションを与えるなどです。
まとめ
今回の備忘録
・稲盛さんが唱えられた方程式「人生・仕事の結果=能力×熱意×考え方」
・個々の因子を高めるには、下記が有効。
【考え方】プラスの考え方を、自分なりの持論・哲学にまで昇華させる。自分の決断や行動はそれに沿っているのか、自分に問いかける
【熱意】目の前の与えられた仕事に没頭し、試行錯誤する。自分に与えられた仕事に意味づけをする
【能力】自分の未熟さを知り、アンラーンする。インプットを増やし、アウトプットして失敗から学び、繰り返す
・組織で仕事の成果を上げたいときも、上記を意識してメンバーに対峙すべし
稲盛さんの方程式を意識して、仕事で成果を生み出しましょう!