この備忘録を共有したいのは
- Mrs. GREEN APPLE『アウフヘーベン』が好きな人
- 『アウフヘーベン』という言葉に興味がある人
この備忘録を読めば
- 豊富な実例で、『アウフヘーベン』の意味や、留意すべきポイントがわかります
- Mrs. GREEN APPLE『アウフヘーベン』の歌詞の考察を読むことができます
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<目次>
- はじめに
- 「アウフヘーベン」とは
- 「アウフヘーベン」の実例
- 世の中は対立する概念であふれている
- アウフヘーベンを目指す意識を持つべし
- 「アウフヘーベン」は万能ではない!
- 「アウフヘーベン」が活きる場面
- ミセス『アウフヘーベン』歌詞考察
- まとめ
はじめに
私は息子にMrs. GREEN APPLE(ミセスグリーンアップル)を教えてもらいました。大森元貴さんの創る曲は本当にどれも素晴らしくて、私もすぐに好きになりました。メロディも歌声もすごいものがありますが、彼の書く歌詞の世界は本当に深く、おじさんの私もとても考えさせられます。
今回紹介する『アウフヘーベン』もすごいと思う楽曲。今回は、「アウフヘーベン」という言葉に初めて出会った方に向けて、その意味を解説します。そして最後に、ミセスの『アウフヘーベン』という楽曲について、私なりの考察をします。
「アウフヘーベン」とは
カタカナ英語は好きじゃないけど・・・
ビジネスでもプライベートでも、一部の人しか知らないようなカタカナ英語を使うのは、私はあまり好きではありません。「諸々プロコンしたうえでオルタナティブプランを用意してアライン、オンスケでいきましょう」みたいな会話を聞くと、「わかりやすく言えー!こんなこと許されるのはルー大柴だけじゃー!」ってイライラすることもしばしば。(ちなみに、上述の意味は「いろいろなメリット・デメリットを検討したうえで、代替案も用意して、関係者と認識を合わせ、予定通りに進めましょう」。)
でも、そんな私でも「お!こういう内容をこんな一言で表現できるのか!これは便利!」と感心するフレーズに出会うことがあります。
このブログで紹介している「セレンディピティ」もそうですし、今回ご紹介する「アウフヘーベン」もそのひとつ。
膠着した事態を前進させる合言葉
そもそも「アウフヘーベン」とは、ドイツの哲学者ヘーゲルさん(へーベンさんではない)が唱えた概念。 「2つの対立・矛盾する考え方を統合して、さらに発展させる」という意味です。
私はそもそもこの考え方が好きで、常々チームメンバーにもこう言っています。
「AかBかの二者択一ではなくて、第3の道=サードウェイを探そう!」
この考え方を一言で表せるのが、「アウフヘーベン」。膠着した事態を前進させる、素敵な合言葉です。
「アウフヘーベン」の実例
たとえばランチで、A君は焼きそばが食べたい。B君はパンが食べたい。で、どちらかがあきらめるのではなくて、「じゃあやきそばパンを食べようよ!」というのがアウフヘーベンです。ミセス大森さんも事例に出していました。
夏休みに、子供たちははしゃぎたい。親はゆっくりしたい。「プール付きのリゾートホテルに泊まろうか」。これもアウフヘーベン。
世の中は対立する概念であふれている
仕事も日々の暮らしも、世の中は一見、容易には並び立ちにくい物事や考え方だらけ。
-
”勝つこと” と ”楽しむこと”
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”お客様を第一に考えること” と ”会社に利益をもたらすこと”
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”環境に良いこと” と ”たくさん売れること”
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”マーケ部門が売りたい商品” と ”研究開発部門が作りたい製品”
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”仕事” と ”プライベート"
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”上の子の言い分” と ”下の子の言い分”
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”配偶者の気持ち” と ”自分の親の気持ち”
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”自分の価値観” と ”誰かの価値観”
などなど。
AとBのどちらかを選んで採用すれば、当然もう片方は切り捨てられる。
ではなくて。
「A」単独よりも「B」単独よりも大きな、「C」という新たな案を新たに生み出すことこそが、『アウフヘーベン』なのです。
”勝つこと” と ”楽しむこと”を両立させる「エンジョイベースボール」を掲げて2023年夏の大会で優勝した慶應義塾高校。そしてユニクロの、不要になった服を回収して再生するリサイクルダウンジャケットなどは”環境に良いこと” と ”たくさん売れること”を両方達成しており、まさにアウフヘーベンの具現化だと思います。
アウフヘーベンを目指す意識を持つべし
創造的な場面では特に、目指すところは「どちらか良い方を選ぶ」ことでなく、「アウフヘーベン」であることを意識することが大切です。
たとえば会議の場で、新商品のPKGデザインについて部長から、「こういう方向の案も作ってみてほしい」と言われたとします。
この時、部長の案は一応作るけれど、魂を込めず捨て案として作るとする。会議で、「部長案も作ってみましたが・・・」と提示するけれどイマイチなんで、結局、元の自分の通したい案が通ることになる。
これではダメなんです。会議の議論が、何もプラスに働かない。
部長ももちろん良かれと思って、部長の経験から仰っている。だから、部長の案も、魂を込めて作ってみないといけない。そうすると不思議と、今まで自分が通したかった案に、部長の意見も反映させた、元々よりも良くなった案が生まれる。このアウフヘーベンは、部長案を捨て案で考えていては出てきません。
「アウフヘーベン」は万能ではない!
ここまでで「アウフヘーベン」について理解していただけたかと思います。では、ここで考えてみましょう。
- 「カレーが食べたい!」と叫ぶ長男。
- 「うどんが食べたい!」と譲らない次男。
あなたが親の立場なら、どうしますか・・・?
「アウフヘーベンバカ」にならないこと
「そんなの簡単だよ。カレーうどんでしょ!カレーうどんを作ります」。そう思われた方。ちょっと待ってください。たしかに、「カレーうどん」は「どちらかを選ぶ」ではなくて、新しい第三の案を生み出した「アウフヘーベン」です。
でも、ちょっとよく考えてみてください。カレーが食べたい長男、うどんが食べたい次男に 「カレーうどん」を提案したら、実際どうなるでしょう?
「え?俺、カレーライスが食べたかったんだけど」
「普通のうどんが良かったのに…」
…そう。不満爆発の可能性、大。
こんな場合は、少し考えれば両方叶えることが可能なので、無理に第三の案を生み出す必要はありません。ファミレスやフードコートに行けばカレーもうどんもあります。この方がよほど子供たちの満足度は高いでしょう。
「アウフヘーベン的な解決」の方が、双方のやりたかったことが中途半場になって、満足度が下がるケースって、日常では結構あるんですよね。先の例に出した焼きそばパンもそう。喫茶店行くか、なんならコンビニで焼きそばとパンどっちも買えって世界です。
世の中には、新しい考え方を知ったら、その考え方一辺倒になってしまう人がいます。何事も、臨機応変を忘れて「〇〇バカ」になってはいけません。そう、「アウフヘーベンバカ」になってはいけないのです。
「アウフヘーベン」が活きる場面
「じゃあ、アウフヘーベンって意味ないじゃん」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。下記のようなのっぴきならない場合こそ、アウフヘーベン思考が輝くときです。
① イノベーションを生み出したいとき
- 「紙の本 vs. 電子書籍」 → 電子ペーパー技術(Kindleのような「紙のような電子書籍」)
- 「映画館 vs. 自宅視聴」 → プレミアムVOD(「家でも映画館クオリティ」)
② 長年の対立を解消したいとき
- 「都会 vs. 田舎」 → リモートワークと二拠点生活
- 「オフィス vs. 在宅」 → ハイブリッドワーク
③ 「どちらかが負ける」状況を回避したいとき
- 企業合併 → どちらの文化も活かしつつ、新しい組織文化を作る
- 国際協力 → 一方の価値観を押し付けるのではなく、新しい関係を築く
つまり、新しい価値を生み出す必要があるときはアウフヘーベンが有効 。冒頭に言ったように「アウフヘーベン」は、膠着した事態を前進させる、素敵な合言葉なのです。
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ミセス『アウフヘーベン』歌詞考察
さて、ここでいよいよ、ミセスの楽曲『アウフヘーベン』の考察です。あくまで超私的考察なので、ご容赦ください。
ここは昨今の、偏った思想の間で、踊らされている世論を私は思い浮かべました。
オールドメディアは偏向報道を一方的に流し、SNSは偏った思想だけで群れる。
そんな中で、自分で考えることをしないと、ヘリウムガス風船のようにふわふわとどちらかに染められるか、いったりきたりの手のひら返しになってしまう・・・
この場所を「嫌だ、逃げたい」と思う人がいれば、その場所を外から見て「羨ましい」という人がいる。隣の芝生は青い。
そして、人生を「まだ生きたりない」という人がいれば、「もう死にたい」という人がいる。ひとりの人間の胸中でも、大なり小なり、この振り子に揺れることがあるかもしれない。
この楽曲の、本当に凄いなとしびれたのがこのフレーズです。
「アウフヘーベン」は、ともすれば、「間をとった折衷案」みたいにも見えがちです。実際に、「焼きそばパン」「カレーうどん」は当初は新しい料理の発明だったので明らかなアウフヘーベンでしたが、今ではありふれていて、単なる折衷案と言えないこともありません。
事例をあげます。とあるプロジェクトの締め切りについて、Aさんは「1週間で終わらせよう!」Bさんは「いや、じっくり1カ月かけて仕上げるべきだ」と言っている。
「じゃあ、間を取って2週間で進めよう」というのが、単なる折衷案です。単に間を取っただけ。
「1週間で基本的な部分を完成させ、その後3週間でブラッシュアップする形にしよう」というのが、アウフヘーベンです。両者の長所を活かしつつ、より良い解決策に昇華しています(短期間でのスピード感と、じっくり仕上げるクオリティの両立)。
楽曲に頭を戻すと、「死んだように生きる」のは間を取っただけの折衷案。そうはいかない、それじゃダメです。
民主主義の国と社会主義の国の、それぞれのルールを単純に足して2で割ったようなルールの国ではダメ。それぞれの本質的な良さを取り入れることが理想のアウフヘーベン。でも、それが容易でないのです。
意見や考えが割れた際に、面倒なので、間を取った折衷案を落としどころに進めた経験、誰しもあるのではないでしょうか。その場はそれで収まります。「大丈夫、心配ない」。瞬間的に虹がかかる。朝日が差す。でも・・・本質的には解決になっていない場合がもっぱらです。本ブログ中盤で書いたように、イノベーションを生み出して長年の対立を解消したり、どちらかが負ける事態を回避したいなら、折衷案でない「アウフヘーベン」が必要なのです。
その場しのぎの折衷案では大勢が傷つき、それにより差した朝日(変化した状況)がまた、誰かを刺す(不幸にする)ことになる。
この楽曲は、「歪んでいて綺麗な」この世の中において、「どちらかを選ぶ」ことでも「間を取る」ことでもない、我々が容易に成し遂げることのできない境地「アウフヘーベン」が必要だと歌っている。そしてそれはそう簡単じゃない、とメッセージされているようです。
大森さんは、この曲をなんと高校2年生の冬に書き上げたとのこと。本当に、歌う哲学者ですね。私なんて40半ばにしてようやくこの曲の意味合いを味わっているのに・・・。尊敬します。
まとめ
今回の備忘録
『アウフヘーベン』は、膠着した事態を前進させる、素敵な合言葉。どちらかを選ぶでも、間を取るでもない。2つの対立・矛盾する考え方を統合して、さらに発展させる。
下記のような場合に特に有効。
- イノベーションを生み出したいとき
- 長年の対立を解消したいとき
- 「どちらかが負ける」状況を回避したいとき
ミセスの『アウフヘーベン』は、我々が容易に成し遂げることのできない境地を歌う、深すぎる名曲。頭の中に流しながら、時にはアウフヘーベンを意識してみましょう!