誰かと私の備忘録

日々の仕事と暮らしからの気づきや学びを「備忘録」として、同じ悩みや境遇の方向けにシェア◆大手企業にてマーケティング20年、現在はインターナルコミュニケーションリーダー◆家ではポンコツ、妻と息子たちに教わることばかり◆昭和平成カルチャー好き◆日本マーケティング協会マイスター|生涯学習開発財団認定プロフェッショナコーチ|ITパスポート

顧客の声を聞いても成功しない…。その理由は「インサイト」にあり

この備忘録を共有したいのは

  • お客様の意見を聞いているつもりなのに、イマイチ反応がよくない人
  • 「インサイト」という考え方を知りたい人

この備忘録を読めば

お客様の意見にそのまま応えるのでなく、「本音」を探って応える大切さがわかります

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<目次>

はじめに

商品やサービスを提供する仕事をされていて、こんな風に思ったことはないでしょうか。「お客様の声を聞いて応えたのに、なぜ反応がイマイチなんだ!」。私もあります。それは、お客様の表層的な意見に応えていても、「本音」の部分にフィットしていないからです。今回は、この生活者の本音=「インサイト」という考え方について説明します。

マクドナルド「サラダマック」の事例

こんな話をご存知でしょうか?有名な実業家、原田泳幸さんが日本マクドナルドの社長をされていた頃のお話です。

  1. マクドナルドのマーケッターが、お客様にアンケートをとって、どんな商品が欲しいか、聞いてみた。
  2. すると、「低カロリー」「ヘルシー」「オーガニック」といった健康志向の商品を希望する声が多かった。
  3. そこで、「サラダマック」という、野菜が摂れるヘルシーメニューを開発、気合を入れて新発売。
  4. しかしながら売上は不振!原田さんは即サラダマックを発売中止に。
  5. 逆にお肉たっぷりの「クォーターパウンダー」や「メガマック」を新発売したところ、これらが売れ行き好調!結局、原田さんが社長を務めた間にヒットしたのは、ボリューム満点、ジャーキーさを強調した商品ばかりだった…!

出典:マクドナルド広告等

顧客の声をそのまま聞いても成功しない理由

サラダマックの事例から学べるのが、「生活者は本当のことを言えるとは限らない」ということです。キャッチーに「生活者は嘘をつく」と表現される方もいます。その理由は、2つあります。

①我々は自分の「インサイト」を言葉にできない

「インサイト」とは、自分自身も気づいていない、あるいはなんとなく気づいていてもうまく言えない本音や動機。

「低カロリー・ヘルシー・オーガニックなものが欲しい」というアンケートの意見は、世の中の健康志向にマッチしていて、マクドナルドのメニューはジャンキーなものが多いから理にかなっているように見えますが、そもそも、マクドナルドに行くという行動の根っこにあるインサイトとマッチしないのです。

お客様がマクドナルドに何を楽しみに来られるのか?「ジャンキーなバーガーをガブリと食いつきたい」といったものが多いのではなないか。それが、他のファーストフードのお店とは異なる、「マクドナルドらしさ」なのではないか。

お客様のおっしゃることと実際の行動は全く違う。アンケートでヘルシーなものが欲しいと言っていた若い女性たちも店頭で平然と美味しそうメガマックやくクウォーターパウンダーをにパクついている姿を見て、藤田さんはこのことに気づかれたのです。

結局、原田さんが社長をしている7年間でヒットした新商品は、上記の「マクドナルドらしさ」を備えたメガマック、クォーターパウンダー、ビッグアメリカ、マックグリドルというボリューミーなものばかりでした。他方、片手で食べられるスナック感覚のマックラップや、油分が少なくヘルシーなピタマックは不発でした。

②他の対処と比較をせずに答えてしまう

健康でありたい、その為にヘルシーなものを摂りたいというのは、生活者の嘘偽りない声だとは思います。でも、それはマクドナルド以外で達成できるのではないでしょうか?こんなアンケートに答えるまでは、マクドナルドにヘルシーなんて期待していなかったのではないでしょうか。

マクドナルドしか無い世界ならいざしらず、我々は手軽にヘルシーなものが摂りたくなったら、サラダデリや野菜サンドやコンビニの惣菜などなど、色々な対処法がありますよね。ヘルシーランチに力を入れているお店も沢山あります。近しいところでは、サブウェイだって。競合が頭にない状態でコメントをもらっても、あまり意味はありません。

インサイトを見つける方法

顧客の声を鵜呑みにしてもいけないのはわかったけど、じゃあどうやってインサイトを見つけるのさ?と思いますよね。WEBで「インサイト・手法」で検索すると色々な面白いやり方が出てくるのでご覧いただければと思います。そんな中、20年間、実務家としてマーケティングに携わってきた私のやり方は「生活者のいっぷう変わった行動を見つける」ことです。アンケートやインタビューで聞いたりSNSで探すのもありですが、やっぱりお客さんの実際の行動を観察するのが(=行動観察)1番おすすめです。マクドナルドで若い女性たちがジャンキーなメニューを嬉しそうにぱくついているのもそうですが、強いインサイトは行動に落ちます。以下はわかりやすい事例です。

ライオン『NANOX』

洗濯物がきれいになったかどうか確認するためにニオイを嗅いでいた主婦の行動に着目し、「汚れだけでなくニオイまで落とす」訴求でヒット!

ハインツ『トマトケチャップ逆さボトル」

残り少ないケチャップを逆さにしてぶんぶん振ってたり、冷蔵庫に逆さにして保管している行動から、「現状のケチャップは出しにくい」というインサイトを発見、それならボトル自体を最初から逆さまにするという大胆なアイデアでヒット!

銀行ATMのバックミラー

ちらちらと背後を気にして振り返る行動から、「見られていないか気になる」というインサイトをついて設置。今では当たり前に。

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インサイトに応える際の留意点

次に、インサイトを発見したからといって、考えなしに応えてはいけません。次のようなことを留意しましょう。

それは誰のインサイトか?

「ハンバーガーも極力ヘルシーがいい」これはマクドナルドの既にユーザーであるお客様のインサイトではなかったですが、ノンユーザーの方にとっては、インサイトかもしれません。自分たちがまず、誰のインサイトに応えたいのか。それを常に意識しておくことが大切です。特に、「ユーザーか、ノンユーザーか」は最初から最後まで混同せず、はっきりさせておくべきです。

自分たちの 現状の姿/ありたい姿 とマッチするか?

でも仮に今回、マクドナルドがノンユーザーのインサイトを発見して応えたいと思っていても、「ハンバーガーも極力ヘルシーがいい」というインサイトに応えるのは筋がよくありません。

理由のひとつは、既にサブウェイなどの競合がそのインサイトに応えていること。そしてもうひとつは、マクドナルドの今の姿にも、この先ありたい姿にも、マッチしないからです。

インサイトに応えるときは、それは我々が成し遂げたい変化なのかどうかを考えるべきです。昔、ベンツが安っぽいスポーツカーやレジャー用などフルライン化に走ったことがありましたが、これも失敗に終わりました。自分たちブランドが今もこれからも守りたいものが何なのかをしっかりと認識しながら、応えるべきインサイトを見定めていくべきだと思います。

私自身の実例

最後に、私が過去、肩こり薬のブランドマネージャーをしていた時の具体的な経験をいくつか紹介します。

肩こりに関するインサイト

お客様数人にグループインタビューを実施していた日のこと。「今日も、目新しい発言はないなぁ…もう肩こりに新しい発見なんてないよ」と思っていたら、休憩時間中にひとりの男性が、壁のでっぱりに背中を押し当てている。「何されてるんですか?」と聞くと「いやぁ、肩こりすぎて背中までつらいんよ」と仰る。そこで他のお客様にも話題を振ってみると、「うんうん、背中もこる!」「でも薬は手が届かないよね!」「妻に塗ってもらえたらいいけど、そんな関係性でもなくて笑!」みたいに盛り上がったのです。

「背中までこる」というインサイトを発見し、背中のコリに対処する商品を開発、発売したところ、ヒット商品となりました。

これは、行動観察でインサイトを発見した成功事例です。

肩こり薬ノンユーザー女性のインサイト

続いては失敗経験を。担当ブランドのユーザーは年配の男性の方が多く、若い女性の比率をもっと高めるべく、新商品の開発にトライしたことがありました。

ノンユーザーの女性に聞いてみると「香りが良くない」「塗った時の刺激が強い」「PKGがおじさんぽくてダサい」という意見が多く聞かれました。そこで、ハーブの良い香りで、塗り心地のよい乳液タイプ、女性らしいPKGの新商品を自信満々に発売しました。

しかしこれが、全く売れないのです。その後、実際に商品を提示したインタビューでわかったノンユーザー女性たちのインサイトは、「『肩こり薬を塗ったり貼ったりする』という行動そのものがおじさんくさい」。なので、上述のような改善をほどこした商品でも、魅力には感じられなかったのです。彼女たちのインサイトに応えるならば、Product(商品)だけでなく、Place(売り場)をロフトやソニプラやフランフランにするとか、Promotion(広告)も人気のある女優さんを起用するとかして、「肩こり薬を塗る」という行為そのもののイメージを変革しにかかる必要がありました。でも考えてみれば、世の中にはそのようなインサイトを避けつつ肩こりをケアできる、女性ターゲットの飲み薬、温感グッズ、電化製品、エステやマッサージなどもう既にいっぱいありますよね。筋の良い戦略ではそもそもなかったのだと思います。

さらに、今使ってくれているお客様にもこの新商品は受け入れられませんでした。女性ユーザーのインサイトは「とにかく効くのがほしい」。かわいくて塗り心地の良い新商品は、「効かなさそう」と捉えられたのです。

これは、サラダマックの事例と同じく、インサイトを把握しようとせず、お客様の言葉をそのまま捉えてしまったことが原因です。

まとめ

今回の備忘録

お客様が言葉にすることと、その本音=インサイトは異なる可能性がある!インサイトを把握することを意識しよう。

  • インサイトを発見するおすすめの方法は「行動観察」「やってみる」
  • 誰のインサイトか、自分たちの現状やありたい姿とズレてないか留意

ビジネス側面で紹介してきましたが、これは毎日の暮らしでも大事な考え方です。

先日、出張で帰りが遅くなった妻に「迎えに行こうか?」とLINEしたところ、「迎えはいい、明日の子供たちの弁当分の米炊いとくのと、洗濯よろしく」と。普段、家事育児を妻にお任せだから、インサイトを当てれてないんですよね。家族の間こそ、お互いのインサイトを理解するには「やってみる」が一番だなぁと思います。家事も、子供たちの勉強も、遊びも。

おすすめの一冊

記事に共感いただいた方へのおすすめ本を毎回紹介します。今回は2冊。

「インサイト」桶谷功

「インサイト」という考え方を日本に広めた一冊。私も本書で知りました。20年前なので事例は古いものもありますが、インサイトという考え方を丁寧に理解したいなら、今でも一番わかりやすいと思います。

「勝ち続ける経営」原田泳幸

マクドナルドの経営に興味を持たれたらこちら。マクドナルドをV字回復させた原田さんの経営哲学が学べます。つくづく、わかりやすく、自分らしさを見失わない経営が大切なのだと気づかされます。

大好きな谷村有美さんの書籍と改めてセットで読むと、味わい深いものがあります…